有明海沿岸漁業代表者と会談、諫早干拓地も視察

2024年05月12日

 
 12日(日)佐賀県の有明水産振興センターで、佐賀、福岡、長崎、熊本の各県漁協・漁連の組合長・会長さんとお会いし、有明海再生へ国として全力を尽くすことをお約束し、その後諫早湾干拓地の農場と営農状況を視察しました。「諫早湾干拓」と「締め切り潮受け堤防」と「有明海のノリ不作」そして「数々の裁判」はこれまで様々な歴史を経ながら今日まで来ました。これまで毎年のように、農林水産大臣が現地を訪れ現地を視察して、解決の道を探って来ました。私も自らの目で現地を見て、関係者と話をしたいと思い国会日程の合間を縫って赴きました。

諫早湾干拓問題は長い歴史】
 長崎県諫早湾干拓の歴史は江戸時代に遡ります。諫早湾は有明海の潮流が時計と逆回りで粒の荒い泥土が湾奥部に流れ込み干潟になって来ました。そこで農地確保のために干拓が進み600年にわたり、3500haの干拓が行われてきました。しかし、地理的に集中豪雨に見舞われやすく、台風の襲来が満潮と重なると高潮も発生し、甚大な水害が住民を悩ませ続けて来ました。昭和32年の諫早大水害では539人(旧諫早市)の犠牲者も出しています。(旧諫早市以外を含む全体では、630人の犠牲者がありました。)
そこで1986年(昭和61年)有明海と干拓地の間に2600haの調整池を造り、870haの農地等を造成する「諫早湾干拓事業」が始まりました。有明海と調整池の間には当然潮受け堤防が必要になります。1997年(平成9年)全長7㎞の潮受け堤防によって諫早湾の湾奥部を締め切り、事業は2008年(平成20年)に完了しました。

有明海での不漁、不作】
 有明海は熊本、福岡、佐賀、長崎県に囲まれた湾です。1級河川である緑川、白川、菊池川、筑後川などの河川が有明海に流れ込みます。干満の差が大きな遠浅の海岸を各県が抱えています。そのためノリの養殖が盛んで「有明海ノリ」は全国ブランドであり生産量も群を抜いています。広範囲に海水と淡水が混じる汽水域が広がる特異な海域であるだけに二枚貝や魚介類なども独特のものが生息しています。
 2000年に発生したノリ不作を契機として、有明海の環境変化の原因究明が強く求められ、農林水産省では諫早湾干拓事業による有明海への影響を調査するため、2002年、1か月間、潮受け堤防を開門して調査を行いましたが、潮受け堤防による影響は有明海全体にはほとんど影響を与えていないという結果でした。それに対し、漁業者2500人が同じ2002年に工事の差し止めを求める訴訟を佐賀地裁に起こしました。
 2008年に佐賀地裁は一部の漁業被害を推認し「3年以内に、防災上やむを得ない場合を除き、排水門を開放し、5年間開門調査をして環境変化を探るよう」国に命じました。これに国と一部の漁業者は直ちに福岡高裁に控訴しました。

菅総理の時に上告せず】
 そして福岡高裁は2010年、1審の佐賀地裁の判決を支持する判決を下しました。通常なら、敗訴した国は直ちに最高裁判所に上告します。しかし、その時は民主党政権、総理大臣は菅直人総理です。農林水産省は上告を主張しましたが、総理の判断で上告はしないことになり、判決が確定しました。国は2013年12月までに開門する義務を負う事になりました。農業、防災、漁業で影響を受ける長崎県は激しくこれに抗議をしました。

 【再び自民党政権、裁判でなく話し合いで
民主党政権は3年間しか続かず、自民党が政権に復帰しました。同時に国は、防災上、営農上、漁業上の影響への対策工事の実施が事実上困難であること等の理由から、2014年に「開門の強制は不当である」として請求異議の訴えを福岡高裁に起こします。その訴訟に対し福岡高裁は2022年に「2010年判決に基づく開門の強制は許されない」という判決を言い渡しました。そして2023年3月、最高裁判所も高裁判決を支持しました。5人の裁判官全員一致でした。
最高裁の決定を受けて昨年、当時の野村農林水産大臣が談話を発表し、「裁判でなく話し合いによる有明海再生を図っていくことに賛同されるのであれば開門によらない有明海再生を目指すとした平成29年の山本農林水産大臣談話を踏まえつつ、➀話し合いの場を設ける➁必要な支援をする➂漁業者の方々に対して寄り添った対応をしていく」と述べました。

漁協の方々の賛同に謝意
 その大臣談話に対して、今年2月14日に佐賀、福岡、熊本の漁協・漁連の代表者の皆さんが大臣室にお越しになり、私に対して、昨年の大臣談話に対する賛同の意を表されたのです。同時に「現地に一度来ていただきたい」というお話をされたことで、今回佐賀県と長崎県に出向いたところです。
佐賀県有明水産振興センターには長崎漁連を含む4人の漁協・漁連代表者の皆さんと、佐賀県の山口知事が待っておられました。私から「大臣談話に賛同していただき感謝します。今後は有明海再生のため全力を尽くします」と述べました。4人の漁業団体代表者の皆さんはそれぞれに「有明海が再生することが私たちの願いである」と熱い言葉で有明海への愛情を訴えられました。
また、国はかつて訴訟上の和解に向けて、有明海再生のための100億円の基金を造成することを提案した経緯があります。そのことについても触れつつ、私から「漁業者の皆さんの思いをしっかり汲み取り、今後政府内で調整していく」と述べました。
今後まだまだ話し合いが続くと思いますが、漁業者の皆さんと有明海沿岸の住民の皆さんの気持ちを受け止め、大臣談話に沿って、有明海再生の実現に向け全力を尽くします。

長崎では大規模営農に感動】
 雨の中でしたが、長崎の干拓地を見て来ました。1区画6ha(6町)という広大な農地に玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー、麦などが豊かに実っていました。連棟ハウスにもレタスなどが栽培されていました。この干拓地で600名の雇用があるそうです。
2008年に熊本の苓北町から入植したアラキファームの荒木一幸さんから話を聴きました。現在、36ha、6圃場にキャベツなどを栽培、加工野菜として大手チェーンレストランと契約栽培をしているということでした。従業員は常雇い10人を含む20人。減農薬、減化学肥料に取り組み、みどりの食料システム法に基づく「みどり認定」も受け、2億円の販売額を上げておられました。今後はドローンなども導入して働く方々の負担軽減も図りたい、と言っておられました。農林水産省は、加工野菜について国産に置き換えるということを目標としており、スマート農業についてもスマート農業促進法案を国会で議論いただいているところですが、モデル的な農業が行われていると感じました。
諫早干拓地では将来に向け、目標を持った大型営農が展開されていました。国は全力で支援をしていく必要があると感じました。
また、諫早湾漁協では、潮受け堤防閉切りをきっかけに、1999年からカキ養殖の取組が始まりました。直売や体験学習を継続し、当初2人で始めたものが、現在では組合員約40名での取組に成長したそうです。若い人の就漁にもつながっていて、一昨年は2億円を超える水揚げがあったとの話も伺いました。
漁業も農業も若い人たちに夢とやりがいを持ってもらうような産業にしていかなくてはならない、と現場を見て思いました。一方で既存の集落での農業、そして中山間地の農林業などにも目を向けていかなくてはなりません。
一次産業は奥が深い。

写真は佐賀県有明水産振興センターでの漁業団体の皆さんとの話し合い、諫早干拓地の説明を受ける私、バスの中から広大な麦秋の圃場を見る