「食料・農業・農村基本法」が成立

2024年05月30日


 農政の「憲法」とも言うべき「食料・農業・農村基本法」が29日(水)の参議院本会議で可決されました。平成11年(1999年)に法律が制定されて以来、25年ぶりの改正です。この場に担当大臣として立ち会わせていただいた事を光栄に思います。

なぜ「農政の憲法」か
 昭和20年(1945年)第2次世界大戦が終わり世界が食料難に直面しました。敗戦国日本も極度の食料不足でした。国民の皆さんが飢えに苦しむなか、国家主導で配給制度などが取られました。そして10年経った昭和30年代になって、厳しいながらもなんとか普段の食事が出来るようになりました。
 その後、池田内閣になり高度経済成長期に入ります。その時「国民は飢えを脱したが、農業者は低所得にあえいでいる。食料を確保すると同時に食料の生産者である農業者の所得を都市サラリーマン並みに引き上げなくてはならない」という声が起き、そのためには「農業の生産性を引き上げ、コメ、麦中心から畜産、酪農、野菜などへの転換をそれぞれの農業者の意思で選択し、規模拡大も図る事が所得の向上に繋がる」という声が上がり、当時の高名な学者(小倉武一、東畑精一氏ら)、農業界の方々、官僚の皆さん、政治家が一体となって、我が国で初めて農業者サイドからの「農業基本法」を制定しました。昭和36年(1961年)のことです。私が11歳、最初の東京オリンピックが1964年ですからその3年前です。農業の基本法を頂点にしてその後様々な農業関連法律が成立することになります。そのため「農政における憲法」と呼ばれることになりました。

その後の農業を取り巻く環境の大変化
 昭和30年後半から我が国は高度経済成長期に入りました。同時に食生活も大きく変化しました。朝食はそれまでご飯とみそ汁だったのがパンとコーヒーか牛乳と卵、昼は外食、夜も家庭ではすき焼きなどの肉や野菜中心の食事に変化し、一方でコメの消費量が減少しました。
特にコメは日本人の主食であったため、政府が買い入れ、消費者に対して安く売り渡すという「食糧管理制度」が取られていました。生産者米価を決める時期になると、農業団体や農林族国会議員が一体となって政府に、生産者米価の引き上げ闘争をする光景が年中行事となっていました。
 一方で海外からの食料の自由化を求める圧力が強まり、牛肉オレンジの自由化、コメの部分開放、そしてサービスなどの分野も含めた貿易自由化を目指すWTO(世界貿易機関・164か国加盟)も設立され、高関税など国境措置で国内の食料を守るという事は難しくなってきました。「食糧管理制度」は平成7年(1995年)に廃止され、コメは市場経済の中で取引されるようになっていきます。

「食料と農村」の文言を追加の新法】
 農業を取り巻く国内外の情勢と環境変化を踏まえて、平成11年(1999年)、「農業基本法」が廃止され、新たに「食料・農業・農村基本法」が制定されます。まずは「食料安定供給の確保」「農業が持つ多面的な機能に着目すること」「農村社会の振興」そして「食料自給率」の目標を初めて掲げました。以来25年間、同法が「農政の憲法」として機能しました。その「憲法」が近年の国内外の情勢で改正しなくてはならない状況になりました。

気候変動や農業者の減少
 情勢の変化の一つは「世界の気候変動による干ばつや病害虫の発生」などが想定以上のスピードで進んでいる事です。二つ目はロシアのウクライナ侵略により穀物王国ウクライナからの輸出が滞り、それに伴う価格高騰の影響が日本にも波及してきました。肥料や飼料の輸入もこれまでの様に出来なくなりました。いわゆる「地政学的リスク」です。そして3番目は「農業者及び農村人口の急減」です。
 つまり「自分たちの国の食料は自分たちでしっかりと守る」「自分の国でどうしても調達できないものは輸入国の多国化を進め、輸入しやすい環境をつくる」「輸入依存度の高い麦や大豆の作付けを進めるとともに、飼料や肥料などについて、たい肥化や下水汚泥資源活用など自分たちでつくれる体制を確立し、全体としての自給率を引き上げる」といった「食料安全保障」を最大の柱として、今回四半世紀ぶりの「改正食料・農業・農村基本法」となったのです。
 今後は新たな改正法律に沿って「食料・農業・農村基本計画」を来年の春を目途に策定します。その中で自給率をはじめ様々な数字や計画の具体的対応策を示していきます。

新たな食料や農業や農村の姿を目指して
 人口が減少し高齢化が進展していく中で、私たちの役割は食料を国民一人一人に確実に届けることが出来るという体制をつくらなくてはなりません。食料の総量を確保するという事も大切ですが、いわゆる「食品アクセス」の充実です。
そのためには生産基盤、いわゆる「人と農地」の整備です。農業に意欲を持つ担い手や農業法人を育成していきます。さらに農業従事者減少に対しては自動操縦をはじめとする農業のスマート化を進めます。スマート農機が効率的に活動するためには農地の大区画化をはじめ、使いやすいような農地にしていかなくてはなりません。また生産する側もスマート農機に合わせるような作付けを展開することも必要になります。
 日本全体の食料増産のために国内需要は今後限られますので、日本を拠点として輸出体系をつくる事も重要です。
そしてそれぞれの農家が、省力化とコスト低減、さらに環境にやさしい農業を実現して所得向上に繋げる必要があります。
 農業や農村を時代に応じて変えていかなくてはなりません。私たちは新たな農業時代をつくり上げていく責務があります。予算確保と現場での協力体制、そのためには改正基本法をしっかりと説明していくことなどが求められます。
これからがスタートです。
写真は参議院本会議で基本法が成立しお礼をする際の新聞報道(日本農業新聞より)】