外国人労働者問題

2023年12月12日


 先週の4日(月)から4日間、自民党本部で「外国人労働者等特別委員会」が開かれました。人手不足が深刻になる中、先に外国人労働者問題を審議する「有識者会議」が技能実習生を1年間で転籍(同じ職種で仕事場を代わる)出来るように提言したため、外国人労働者の地方から都会への流出が懸念され、特に農村部の人手不足がさらに深刻化するという懸念があることから、改めての党としての意見を集約するためものでした。

技能実習制度と特定技能制度
 外国から日本に来る労働者は「技能実習」と「特定技能」に分かれます。技能実習は日本で技能を習得して母国に帰ってその技能を生かしてもらおうという、技能移転を通じた途上国への国際協力という位置づけの制度です。滞在期間は最長5年です。業種は85職種あり、業務内容が細かく分かれています、技能を学ぶという趣旨から転職は出来ません。就業先が変わる転籍は出来ますが、一定期間同一職場で働くことが義務です。一方、特定技能は人材確保が厳しい職種に対して、一定の専門性を持った外国人労働者として日本で認められた方々です。14職種に限り認められています。特定1号と2号があり、1号は在留期間が5年、2号の資格を取れば家族帯同が出来、永住も出来ます。
我が国は「移民」を認めていないので、このような制度にしています。

弁護団が人道上の問題として指摘】
 しかし、このような制度に対して労働関係の弁護士団体などが「事実上労働力として雇用していながら転籍を認めないのは人道上問題がある」と指摘しました。実際、熊本などから途中で失踪するという事態が、かなりの件数に上っています。このため「有識者会議」が転籍を当初、1年で認めるようにしました。

各業界からヒアリング
 自民党の特別委員会の初日は農業会議所、水産加工業組合、日本造船工業会、2日目は建設業関連団体、スーパーマーケット協会、3日目は商工会議所、商工会、中小企業団体連合会、繊維産業連盟からそれぞれにご意見をお聞きしました。
 それぞれの団体が「せっかく育てたのに他の職場に行ってしまわれては、それまでの投資は何だったのかという思いになる」「人道的な問題はない。どの外国人に対しても丁寧に対応している」「日本の労働不足は深刻である。もっと産業現場に立って制度をつくって欲しい」という意見が出されました。
円安もあり、外国人労働者にとって、日本で働き仕送りするというパターンはすでに崩れて来ています。韓国や台湾、ヨーロッパなどに向かう東南アジアの労働者が増加しているのが現状です。働きやすく、かつ賃金が周辺諸国より恵まれているという環境をつくり出さなくてはなりません。

地方創生枠で地方の人材を確保できないか
 委員会で私は「地方においては農業は多面的機能を持った産業で建設業との境はあまりない。例えば農業用水路の整備や路肩の除草作業などは建設業が請け負うが、実態は農業との延長線上にある。地方創生枠を設けて境界が鮮明でない産業間においては実習生が交互に働けるようにできないのか。そうすれば実習生の収入も上がり地方の労働力も確保できる」と意見を述べました。
 各産業の方々からは大いに賛同を得ましたが、役所の返答は「実習生で技術習得が目的のため制度上厳しい」というものでした。しかし地方は地方なりの労働力確保対策を取っていかなくてはなりません。制度論や建前論に縛られず、地方としての対応策を今後も訴えていきます。

自民党の取りまとめ
 12日(火)自民党本部で5回目の「外国人労働者特別委員会」が開催され、これまでの論議とヒアリングを踏まえて自民党として「技能実習制度・特定技能制度の見直しに向けた提言」を決議しました。
《基本的考え方》➊新制度による人材育成と労働力確保の二つの目的を果たすために、各分野における技能習得期間・地域性・季節性を尊重した制度設計を早期に示し制度改正を行う➋外国人材の地方から都市部への流出に対しては具体的対応を行う➌地方から都市部への流出をはじめ転籍を助長させることで利益を得る悪質ブローカーを排除する具体的方策を講じる➍現行の技能実習制度と特定技能制度の産業分野に齟齬がないように新制度において必要な特定産業分野を追加、再編することなどです。
 また外国人労働者が実習先を変える「転籍」については「転籍要件を明確化し、実習者・受け入れ機関・各受け入れ団体、分野それぞれに配慮すること」さらに「現行制度における『失踪』の実態を調査し、やむ得ない場合を除き、人材育成と人材確保の双方を実現する体制が構築されるまでの間、基本的に3年間、企業や実習先において就労を通じた育成を行う」と有識者会議の提言とは異なった決議をしました。現場の事態を踏まえてのことです。

労働実態と人手不足、求める外国人労働者の理想をどう解決していくか
 我が国の政府は、移民政策はとらないという明確な方針を立てています。それはヨーロッパの各国の様に移民を巡り国民の分断が生じ、国家としてのアイデンティティーを保てなくなるためです。その方針は正しいと思います。しかし、技能実習生の実態は東南アジアの途上国からの労働者です。日本で技術を習得することが目的ですが、例えば酪農の技術を身につけたとしても、帰国しで母国に日本のように機械化された酪農システムがないのが現実です。
 一方、特定技能制度は労働者ですので日本で1号から2号と技術を向上させていけば家族帯同も出来、期限なしで日本に住めることになります。技術を習得し日本に永住し、こどもたちがいずれ日本に帰化して行くという事になれば最も理想的ですが、そのためには労働環境を整備し、日本を選び日本に住みたくなる国に私たちがしていかなくてはなりません。
 介護、運輸、農業、水産業など、周囲は深刻な人手不足の産業ばかりです。今後、どこまで外国人労働者の分野を広げていくかも課題です。
新たな国の形
 生活習慣の違い、宗教の違い、人種の違いを乗り越え、治安を守り働き手を確保し、産業を成長軌道に乗せていくことは難しい課題ではありますが、外国人労働者とも問題を共有し、これからの我が国をつくっていかなくてなりません。

 人手不足から来る外国人労働者問題は新たな国づくりのスタートでもあります。一方で経済成長を目指す世界各国との競争でもあります。スピードが求められます。
写真は自民党本部で開催された「外国人労働者等特別委員会」(3日目の6日水曜日)】