宮本輝著「流転の海」完結

2018年11月08日

 作家宮本輝さんが、37年の歳月をかけて書いた自叙伝的小説「流転の海」(全9巻)を読み終えました。大阪、愛媛、富山、兵庫を舞台に、宮本さんの父「松坂熊吾」と妻「房江」、そして宮本さん自身の「伸仁」を中心に展開される、人間模様と人の生老病死について描いた壮絶なドラマです。宮本さんは父が50歳の時初めて生まれた子供。奥さんはもちろん20歳以上若い。主人公の松坂熊吾は「わしゃあこの子が二十歳になるまで生きるけんのう」と言って本当に71歳で生涯を終えます。その間20年の波乱万丈の人生はそのまま、戦後の昭和史につながります。
 物語は昭和22年、松坂熊吾が大阪駅のホームに降り立ち、焼け跡で闇市が横行するバラック群を見下ろす場面で始まります。
 私にとっては県議会議員の時だったか、国会議員になってからだったかよく覚えていませんが、北海道視察の帰りに、飛行機の中での退屈しのぎに、千歳空港で「流転の海」の文庫本を手に取ったのが始まりです。
 物語が進む時代が、私が生まれたころとあまり変わらない。昭和30年代の懐かしさと松坂熊吾のたくましい生き方に魅入られて、次々に読んでいきました。第6巻くらいからは次のシリーズが出るのが待ち遠しくてたまりませんでした。今回も最終巻は10月30日に発売と聞いて、丸の内の書店に予約していました。
 宮本さん自身にとっても生涯の大作でしょうが、私にとっても読み終えて達成感を感じています。バイタリティにあふれる松坂熊吾の発する言葉は激しくてぶっきらぼうで一方でユーモアがあり、ホロリともさせるのですが、真理を突き、社会の法則を言い当て胸にグサッと刺さり、「目からうろこ」の場面が数々ありました。どんな哲学書を読むより、平易な言葉で語る言葉の方が私のレベルでは頭に入ります。
 一番印象に残っている松坂熊吾の言葉は「なにがどうなろうと、たいしたことはありゃせん」。
 勇気づけられる言葉です。