「強い日本を残す」神田眞人著
2026年01月20日

正月に元財務省の財務官で現在「アジア開発銀行」総裁の神田眞人さんが書かれた「強い日本を残す」という本を読みました。日本が今後どういう政策を取ればいいか、日本の将来について、日本経済新聞記者の質問に答える形で書かれた本です。私なりにかなり正鵠を得た内容と思いブログに書くことにしました。
【財務官、アジア開発銀行とは】
財務省財務官は財務省の次官級ポストで国際金融、為替などを担当します。「円安、円高、日銀の金利」などを常に監視し、世界経済的視野から日本の経済状況や評価、位置付けなどを考え、必要に応じて「円売りや円買い」などを実行する〝国際経済の番人〟であり、日本のトップエリートです。
アジア開発銀行(ADB)はアジア、太平洋諸国の経済発展のため、1967年に設立された国際金融機関で本部はフィリピンのマニラにあります。67カ国が参加しており、主な出資国は日本、アメリカ、中国などで歴代総裁は日本人で財務省財務官が就任しています。それだけに、著者神田さんの考えを知ると、財務省の考え方、日本の世界的地位、将来の経済国家としてのあるべき姿が分かります。
【世界的に見た日本経済の衰退】
最もショックだったのは世界的に見た日本経済の衰退を細かな分析と数字で示されている事でした。その国の経済の強弱を示すバロメーターとして①経常収支②第1次所得収支③サービス収支④貿易収支が挙げられています。この4つの要素をトータル的に見て日本経済の推移を考え、将来に必要な改革をしていかなくてはならない、と警鐘を鳴らしています。
【経常収支は安定だが・・】
海外から様々な「稼ぎ」を反映する経常収支は24年度30兆円の黒字。黒字分は海外に投資され、対外資産は増え続けている。対外純資産残高は533兆円、30年以上世界一だった座はドイツに抜かれ第2位に後退したものの世界有数のお金持ちであることに変わりはない。しかし、今後は楽観出来ない、というのが著者の考えです。
【貿易での競争力低下、稼げる製品わずか】
海外への投資から得た利子や配当などの第1次所得収支は42兆円の黒字にはなっているものの、貿易収支は4兆円、サービス収支は2.6兆円のそれぞれ赤字です。日本が貿易で稼げるのは自動車、半導体製造装置などに限られ、かつての稼ぎ手だった電気機器は輸入超過で、今では赤字になってしまった。しかも自動車は電気、モーター、自動化に変化し、輸送機器と言うより電化製品と呼びうる存在になっていくかもしれない中で、日本はAIに必須のデータ蓄積も遅れをとっており、これらの不安が現実になれば貿易収支の赤字は一段と膨らむ、と記されています。これまで日本は高い競争力を誇り、貿易で稼いできたが、今や投資でしか稼げない国になった、と。
【国内への直接投資は北朝鮮以下】
更に問題なのは「投資」で稼いだお金が十分に日本に戻らず、海外での再投資に振り向けられている、と指摘しています。日本にマネーが戻らないようでは雇用も伸びず、国内経済は活性化しないのです。日本人も日本に投資するのではなく、海外への投資が個人レベルで進んでいる、これでは外国人が日本への投資に魅力を感じる訳がない。対GDP比で対内直接投資の比率を見ると、香港やシンガポールなどは500%以上。つまりGDPの500倍の投資が行われているのに対し、日本は5.3%で世界196位、北朝鮮でも6.3%で195位ですので北朝鮮以下です。因みに197位ネパール、198位バングラデシュです。
【デジタル赤字という新たな負担】
そこに来てサービス収支の中でデジタル関連の赤字が拡大しています。世界でIT企業が様々なサービスを展開し、特にアメリカの独占状態です。デジタル赤字の構成要素は主に3つある、と書かれています。クラウドサービスやオンラインサービスの利用料を反映する「コンピュータサービス」、動画・音楽配信のライセンス料からなる「著作権使用料」、インターネット広告の売買代金に代表される「専門・経営コンサルティングサービス」です。2024年で赤字は7兆円になっており、すでに貿易赤字を上回っています。今後軽視できない、と云われます。
【生産性の向上がカギ】
最終的にこれらを克服するのは生産性の向上しかない。それが成長力、競争力を高める。そのための処方箋として①生産性、成長力の高い分野に労働力、資本力をシフトさせる②弱い立場に置かれる人々に対しては国が適切な範囲でセーフティーネットを充実させる③米企業に負けないIT部門の競争力強化、などを挙げています。
【政治の役割と葛藤】
全てを読み終わり、この30年間の日本は何をしていたのか、と暗澹たる気持ちにもなりました。しかし、何事も一挙に進まないのが社会であり政治です。生産性向上に乗れない産業に対して、いかに支援して、かつ構造的改革をさせるか、生やさしいことではありません。成長と競争力強化には非情な判断もしなくてはなりませんが、やはり社会の融和を忘れてはなりません。人口減少・高齢化の日本で、成長を達成する一方で格差解消を図り、日本に暮らす全ての人たちに豊かさと安らぎを実感してもらい、日本という、国の一体感を覚える国家にしていく事が政治の役割です。政治と私の葛藤は続きますが、米国でも中国でもロシアでもない、世界がモデルにするような日本のあるべき姿を常に考え、これからの世界の中の日本の政治に挑みます。







